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豊崎 由美(書評家)/東京芸術劇場『マシーン日記』

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倫理観の欠如した機械いじりと盗聴が好きなミチオ、弟のミチオが強姦した娘サチコと結婚し、ミチオの足に鎖をつけて幽閉する工場経営者のアキトシ、機械の正確さと緻密さを愛し、ミチオのマシーン1号になりたいと切望する怪力女ケイコ。この異様な三者が、チープでディープな愛憎の泥海でのたくり回る。にもかかわらず、そうした醜悪で猥雑な様相のすべてが、ある瞬間、幸福と美に転じるのだ。
鎖をつけられたほうの足を切断された案山子のミチオ、精神の均衡を崩して欽ちゃんの仮装大賞に出るべくライオンに変身したアキトシ、マシーンと化すために全身にブリキをまとったケイコ。彼らが、無惨な過去を背負うサチコが夢みる「オーヴァー・ザ・レインボウ」の世界の住人と化した時に現出する滑稽で哀しい幸福感は白眉だし、マシーン1号が放った火によって燃えさかる町を兄弟がうっとり眺めるシーンの背徳の美はこの芝居の要諦だ。きれいは汚い、汚いはきれい。この異化によって、観客は自分がちゃらになっていく目眩にも似た快感を覚える。それが『マシーン日記』の傑作のゆえんなのである。
 
分野:演劇
推薦者:豊崎 由美(書評家)
作品名:東京芸術劇場『マシーン日記』
 
撮影:引地信彦