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ごっこめし#7/ミュージカル『マリーゴールド』

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「ごっこめし」とは、作品から妄想した料理をごっこ遊びのように作って食べる企画です。

フード・テキスト・写真:土谷朋子(citron works)/ 撮影協力:AWABEES

「窓際の化け物のサンセバスチャンケーキ」

サンセバスチャンケーキ/ガーベラのデコレーションケーキ
ブラッディフランボワーズ/血のように紅いラズベリーのジュース
ムラングマリーゴールド/屋敷の庭に咲くマリーゴールドのメレンゲ菓子

「窓際の化け物」そう聞いてあなたならそれを見に行くだろうか。
おそらくあまり娯楽のない民衆にとって、屋敷の中にだけ存在する自分達には危害を及ぼさないであろう「閉じ込められた化け物」ことあの少女は恰好の暇潰しなのだろう。
その化け物の中にガーベラという少女が存在していることなど考えもつかないほどに。
確かに、庭にわんと咲き誇るマリーゴールドの向こう暗い屋敷の窓に薄暗く浮かぶその姿は亡霊のようだ。
しかし誰か気付いた者はいないだろうか。その瞳の力がそこにいる誰よりも強く輝いていることに。

「マリーゴールド」は愛を乞う人々の物語だ。愛から生まれる呪い、愛から生まれる許し、愛から生まれる妬み、愛から生まれる献身、愛から生まれる犠牲、愛から生まれた希望。
求めるのは各々が信じるただ一つの愛だけ。

ケーキをカバーするのはブルーブラッドの肌のようなチョコレートガナッシュ。
トップに飾るのは「絶望」のマリーゴールドではなく「希望」のガーベラを。
それは赤い色をつけるためにドラゴンフルーツとローゼールも使って煮た真っ赤な林檎のコンポート。
(林檎には鉄分の吸収をよくする効果が。その花言葉は「誘惑」「後悔」そして「最も美しい女性へ」とある。ポリフェノールも豊富なドラゴンフルーツの花言葉は「燃える心」。ローゼルの果物には「乙女の真心」という果実言葉があり、またビタミンCや鉄分も多く含まれる)
青白いガナッシュに覆われた白と黒のフラッグチェックのスポンジにナイフを入れて切り分ければビターなチョコレートガナッシュの間から真っ赤なラズベリーのソースが滲む。
まるでそれはガーベラの苦しみや悲しみ、願いがじわりと染み出すように。

人々は人間種と吸血種の混血「ダンピール」であるガーベラとその母であるアナベルを化け物と交わった女として忌み嫌っている。
屋敷の窓枠である額縁の向こう、ガーベラがたとえ切り分けたケーキの断面のようにその心情をあらわにしたとしてもなお人々はマリーゴールドのメレンゲを音を鳴らして蹴散らし踏みつけ、このケーキを味わいもせず食い散らかすのかも知れない。
どんなに生まれた希望が希望のままであるように願ってもおそらくはその耳には届かないまま。
そこには共に血のように紅いラズベリーのジュースもある、構わずそれも飲み干すといいだろう。

作品名:ミュージカル『マリーゴールド』
脚本・演出:末満健一
上演年:2018
劇場:サンシャイン劇場 他

撮影:遠山高広

あらすじ:
人間種と吸血種、この二つの種族が「不可侵条約」により共生する世界。
アナベルはダンピール(人間種と吸血種の混血)である一人娘のガーベラをマリーゴールドの花に囲まれた屋敷に閉じ込めるように保護して暮らしている。街の人々は少女ガーベラを「窓際の化け物」と呼び、その母アナベルのことは「化け物と交わった女」と罵り忌み嫌っていた。
ダリ・デリコという名で活躍する売れっ子作家の一面を持つアナベルは、永遠の命を持つ原初の吸血種「トランプ」の伝承をテーマとした作品の次回作に、吸血種の世界で実しやかに囁かれる「繭期少年少女失踪事件」を題材に選んでいる。
そんなアナベルのもとに、熱狂的なファンだと称するソフィとウル2人の少年が訪ねてくる。

アナベルの妹エリカは姉とのかつてのような平穏な生活を望み、担当編集者コリウスはアナベルに恋い焦がれている。
血盟警察はあまりにも吸血種に詳しすぎるとアナベルの小説に目をつけ、不可侵条約に違反しているのではと嫌疑をかけ、孤独な母子を気遣う担当医師であるヘンルーダはそれでもアナベルに冷たく突き放される。
様々な人からも疎まれるダンピールであるガーベラとその子を最愛の娘「希望」だとただひたすらに愛するアナベル。
母娘を取り巻く人間関係の渦、様々な愛がたどり着く結末とはーーー。